誰もが経験する子育て中の「ヒヤッ」
こどもの事故を防ぐには
小さなこどもをちゃんと見ていたつもりでも、思わぬ動きでこどもがケガを……。そんな「ヒヤッ」とする経験は、ありませんか? 「よく見ておかないと」と思っても、家事などに追われ、24時間ずっとこどもを見続けるというのも、現実的ではありません。こどもの事故をどう防ぐのか、みんなで経験や知恵を寄せ合えば、解決策が見つかるかも。子育て中の保護者のみなさんと専門家が集まり、話し合ってもらいました。
◆座談会に参加したみなさん
大野美喜子さん:NPO法人Safe Kids Japan 理事長
Aさん:30代 2歳と4歳の女の子の母親
Bさん:40代 3歳の男の子の母親
Cさん:50代 4歳の女の子と16、18歳の男の子の父親
Dさん:30代 2歳の女の子の父親
Eさん:40代 4歳の男の子の母親
事故は日常生活で多く起こる
大野さん:今日はみなさんに「こどもの事故」についてお話を聞かせていただければと思います。私はこどもの事故を減らすために「Safe Kids Japan」というNPO法人で、こどもの事故予防の研究や啓発活動に取り組んでいます。
実は、ここ15年ほどで、こどもの事故に対する世間の考え方は大きく変わってきています。
2010年ごろは、事故が起きたときにはメディアも含め、「ちゃんと見ていなかった親の責任」という論調だったのですが、いまは現実問題として、「親がずっとこどもを見続けるなんて難しい」という考え方へと変わってきています。具体的には「未然に防ぐのが大事」という考え方がだんだん広がってきました。
今日はみなさんに「ヒヤリ」「ハッ」とした経験を話していただくことで、どうしたら、こどもを安全に、のびのびと育てられるような仕組みを作っていけるのかについてお話ができたらと思っています。
Eさん:「ヒヤリ」とした経験と言えば……息子が生後11ヶ月ぐらいの、ちょっと立ったり歩いたりし始めたころのことです。キッチンに入れないように、リビングとキッチンの間にカラーボックスを横に置いて、ベビーガード代わりに使っていたのです。大人は簡単にまたげるし、息子はボックスの上におもちゃを置いて遊べると思って置いていたのですが、息子がボックスを飛び越えて反対側に落ちてしまって。料理中に泣き声で気がつきました。すぐにベビーガードを買って設置したのですが、落ちたときは慌てました。
Aさん:長女が1歳ぐらいのとき、大人のベッドで一緒に昼寝をしていたら「ドンッ」と音がして、長女が下に落ちていました。たまたま床にごみ箱があって、クッションのようになったのですが、それ以来怖くて布団で寝かせるようにしています。
Bさん:わかります! 私も普段は布団で寝ているのですが、ホテルに泊まったときに息子がベッドから何度も落ちて、何度も夜中に引き上げるわ、息子は泣くわで、一生ホテルに泊まりたくないと思いました。
Cさん:我が家は海が近く、よく娘を遊びに行かせています。あるとき、ライフジャケットは着せていたのですが、素足で浜辺を歩いていると、青い風船のようなものが落ちていて、娘が触りたそうにしていました。よく見たら猛毒のクラゲ、カツオノエボシだったんです! 海が身近な存在なだけに、危険な生物のことも教えていかなければならないなと思いました。
Dさん:最近、私が将棋にハマっていまして、ポータブルマグネット式の将棋セットを買ったんです。いま娘は2歳半で、1歳のころと比べて、むやみに口に物を入れなくなったし、妻とも話して、「手の届かないところでちゃんと管理すれば大丈夫かな」と思って……。自分としては手の届かないところに置いたつもりでしたが、ちょっと目を離したすきにこどもが手を伸ばして取ってしまい、ひとりで遊ぼうとしていたことがありました。
磁石は飲んでしまうと危険だし、複数だと体内でくっついて、内蔵を傷つけてしまうことも知っていたのですが、まさかもう手が届くようになったとは思っていませんでした。
昨日何も起きなかったから「今日も大丈夫」?
大野さん:みなさん、子育てされていると体感されるかと思いますが、こどもは日々発達するので、昨日できなかったことが今日できるようになっています。そのスピードは、親の予想以上です。「昨日も何も起きなかったから、今日も大丈夫」と思いがちで、対策が遅れてしまうことがあります。
私たちも、こどもの能力がとても高いことをわかっていながら、研究を重ねると、想定を上回る能力を目の当たりにすることがあります。
たとえば、転落事故を防ぐための実験で、ベランダの柵を再現した140センチの高さを、自分の背よりも高いのに踏み台無しで、ものの5秒くらいで登ってしまったケースもありました。
多くの事故は日々の生活の中で起こるのですが、日常のことなので対策を取るのは後回しにしてしまうことも多いと思います。先ほどのベランダについても、本来は補助錠を窓につけて出られないようにすべきなのですが、実際には“手間がかかる”“使い勝手が悪い”などの理由から、なかなか十分には対策が広がらないのが実情です。
Bさん:私はみなさんと比べたら本当に野性的に育てているかもしれません。キッチンにベビーガードも付けていなくて。私が料理しているとき、息子が踏み台を持ってきてそばで見ていることもあります。息子がコンロの火に興味を持ち始め、火をフーッと吹くこともあったのですが、危ないときは「触っちゃだめだよ」と声をかけますし、もし多少のやけどで小さな水ぶくれができたら、息子自身がその経験から学んで、もう触らなくなるのではないかと考えていました。
大野さん:おっしゃるように小さな事故で「これを触ったら熱いんだ」などと、こどもたちが経験からリスクを学ぶことは大事だと思います。
ただ残念ながら、亡くなる事故もあります。先ほどCさんがお話されたように「海の楽しさを伝えたい」といっても、ライフジャケットを着けずに海に入るのは危険ですよね。時には取り返しのつかない事故も起きてしまいます。
だから、事前に対策をしていくことはやはり大事なんですね。
自分を責めるのではなく、原因を取り除こう
Bさん:対策が大切だということがよくわかりました。やっぱり、事故が起きてしまうと本当に落ち込むし、自分のせいだと思ってしまうので……。
以前私がキッチンでネギを刻んでいるとき、好奇心からか息子が手を出し、小指を深く切ってしまったことがありました。あのときは「可哀想」という気持ちや、「将来障害が残ったらどうしよう」という気持ちに加えて、周りから「親が見ていなかったからだ」と責められるのだろうな、など、さまざまな思いが押し寄せてきました。
Cさん:自分を責めるし、パートナーからも責められますよね。僕は娘をベビーカーに乗せていたとき、ちょっとの距離だからいいかとシートベルトを着けずにいて、結果娘が落ちてしまったことがありました。顔をけがしてしまい……。もう妻に対して合わせる顔がなかったです。
Aさん:私は子乗せ自転車にこどもたちを乗せていて、荷物を置きに一瞬離れた隙に自転車が倒れてしまったことがありました。そのときに通行人のひとりに「お母さん何してんの!」と叱りつけられて……。確かに私が悪いのだけど、そこまで言わなくても……と悲しい気持ちになりました。
大野さん:日々、「これぐらいはいいかな」と思うことって本当によくあって、私自身もときどきあります。学術的にみますと、人間はそういうもので、「これぐらいはいいだろう」「このくらいなら大丈夫だろう」と思う認識と、現実のギャップで事故が起こるのです。
大切なのは「環境改善」で、大人がちょっと目を離しても重大な事故が起きないような環境をつくることがポイントです。事故が起きてからお母さんお父さんを責めても、あまり意味はありません。
Bさん:「環境を変える」といえば、息子に触ってほしくないものは最初から「無いもの」として引き出しの中にしまっています。息子はその引き出しの存在を認識していないので、開けることがありません。さらにロックをかけて、万が一にも備えています。
大野さん:良い方法ですね。たとえば誤飲すると危険なボタン電池も、こどもの前では交換しない、出しているところを見せないという方法があります。それからキッチンですが、私の姪っ子も、キッチンで包丁を出して振り回していたことがありました。こどもが親の言うことをよく理解できるようになるまでは、キッチンには入れないようにガードを付けておいたほうがいいですね。
Eさん:先ほどAさんBさんからベッド転落のお話がありましたが、私は普段ベッドルームの隙間にクッションなどを敷き詰めて段差を無くしています。
大野さん:ベッドの隙間に柔らかい物を置くのは、安全なようでいて実は窒息の危険性があるんです。床に布団だと落ちる心配もないので、良いですね。なかなか無いですが、最近はホテルでも布団で寝られるところもありますね。
Dさん:パートナーとの価値観のすり合わせも大事かなと思います。先ほどのマグネット将棋の話をとっても、事故の予防に対する危機感で、妻と私に温度差があるのを感じました。
大野さん:そうですよね。我が家の場合、娘が小さかったとき、洗面台の下に洗剤を入れているので必ず鍵をかけるようにしていたのに、よく夫はかけ忘れていました。だから何回も誤飲のリスクを伝えましたね。
Cさん:私は「装備」を習慣づけようと心がけています。たとえば自転車に乗るときはヘルメットをかぶるとか、夕方以降外出するときは反射板を身につける。そうすると、こどものほうから「パパ、反射板忘れてるよ」と言ってきてくれるようになりました。
大野さん:自転車のヘルメットも水辺のライフジャケットも、親が身につけていると、こどもも真似するようになります。私たち大人が「そうするのは当たり前」ということをこどもたちに見せていけたら良いですよね。
Dさん:あと、うちは扇風機を羽根のないものにしたり、触ってもやけどしないヒーターを使ったりしています。
大野さん:事故予防に配慮し、工夫して開発された製品は多く出ています。のどへの突き刺し事故防止のために柄が柔らかく曲がる歯ブラシや、蒸気が出ない炊飯器、倒れてもお湯が出ないポットなど……。こどもの行動を変えたり制限したりするのではなく、使う製品を変えて環境を改善する方向で対策をしていきたいですね。また、家電などが原因で事故が起きたことがわかれば、その製品の改善につなげることができます。
実際の事故例を分析する「CDR」から、予防のためのアドバイス
大野さん:今日みなさんに集まっていただいたのは、「チャイルド・デス・レビュー(CDR)」、日本語で「予防のためのこどもの死亡検証」を多くの方に知ってもらうためなのですが、みなさんはCDRのことはご存じでしたか?
CDRとは、医療機関や行政など複数の機関・専門家が連携して、亡くなったこどもの事例を検証し、予防策を提言する取り組みです。その目的は、予防策を導き出すことで、未来の防ぎうるこどもの死亡を少しでも減らすことにあります。まだ全国には広がっていませんが、いくつかの都道府県がモデル自治体として取り組んでいます。
実際、モデル自治体からは、
・赤ちゃんの睡眠中の窒息を防ぐための「新生児訪問」
・乳幼児健診での「安全な睡眠環境の指導」
・交通事故による乳幼児の死亡を受けて作成された「チャイルドシートの正しい設置・装着方法の啓発動画」
・毎年のように発生する水難事故を踏まえた「ライフジャケットの啓発、水難事故の知識啓発」
など、さまざまな予防策を検討・提言しています。
大野さん:「死亡検証」というとちょっと怖いと感じる保護者の方もいらっしゃると思うのですが、こどもが亡くなったとき、どうやったらその一つの死を予防することができたのかを考える必要があります。
いまの日本では、事故でこどもが命を落とす件数が多くあります。次の事故を減らすため、専門家みんなで事例の情報収集から検証、再発防止のための予防策の提言を行い、こどもが安心安全に暮らせる社会の実現に向けて取り組んでいこうとしています。CDRはそのための制度でもあるのです。
Aさん:こういった制度があることは全く知りませんでした。でも、予防をするために、こどもの死亡事故の検証をしてもらえるというのはすごく大切なことですね。あまりこういった制度の情報にタッチすることがないので、小児科でチラシを配るなど、積極的に広げてほしいなと思います。
大野さん:こども家庭庁をはじめとした行政機関は事故予防の方法も含めて、CDRについて発信しています。事故予防の内容は、母子手帳にも書いてありますが、なかなかゆっくり読み返すことはないですよね。私たちも行政機関と一緒になって、もっと積極的な発信をしていきたいと思っています。
CDRの制度が整うことで、日本がもっともっとこどもにとって安全になっていくと思いますので、みなさんも「もっとこんな風に安全にしてほしい」と声を上げるなど、できるかたちで関わっていただけたらうれしいです。
今日はみなさん、貴重なお話を本当にありがとうございました。
Profile
大野美喜子(おおの・みきこ) NPO法人Safe Kids Japan 理事長。国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター研究員として、AIを用いた傷害予防教育プログラムの開発研究などに携わる。二児の母。
知っておきたい、
命の守り⽅の具体策
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一般のみなさまへこどもが安全・安心に暮らせる環境をつくるために、普段の生活の中で取り組める予防策を動画や記事でご紹介します。 -
自治体の方へ各自治体で行われているCDRモデル事業の取り組みについてご紹介します。 -
医療機関の方へCDRの実施にあたり、医療関係者のみなさまにお願いしたいことや対応方法についてご紹介します。
防ぐための予防策